Note
里山で暮らすことに新たな価値や意味を見出せる場所「ヤマナハウス」の魅力
温暖で自然豊かな南房総市で、里山の新しい利用法を提案しているのがヤマナハウス。里山のコミュニティをベースに、生き物観察や自然体験のような「グリーンツーリズム」のほか、裏山シアターやジビエBBQのような「娯楽の場」としても里山を訪れたくなる仕掛けを作っています。田舎にありながらも、新しい発想が次々と生み出されているヤマナハウスの魅力に迫っていきます。
ヤマナハウスとは
ヤマナハウスは都心から車で1時間半、南房総市三芳地区に位置しています。築300年とも言われる古民家と3000坪の敷地にある畑と裏山をシェア里山として運営しています。シェア里山とは、地元の人、移住者、2拠点生活者など多様な人たちと交流しながら、古民家DIYや裏山の整備、畑で土いじりなど、様々な里山ワークを体験できる場所です。ヤマナハウスはこうした里山ワークを通して、地域資源の利用法を現代版へアップデートし、全国へ広める活動を行っています。
いきつけの田舎をつくろう!ヤマナアカデミーに密着
ヤマナハウスでは「日々をより心地よく、豊かにするためのヒントは自然の中にある」をモットーにいきつけの田舎づくりを推進しています。その一環として、地域課題と自給自足スキルを身に着けながら、楽しく課題解決を目指すプログラムを実施中。今年度は「ヤマナアカデミー2022」として交流拠点のヤマナハウスをフィールドに「小屋DIY」「狩猟ジビエ」の2コースを開講しました。今回は今注目の「狩猟ジビエ」コースにスポットを当て、詳しくご紹介していきます。
狩猟ジビエコースは、全3回で行われ、獣害対策となる「狩猟」「解体」「調理」について自給自足スキルを習得します。今回取材したのは狩猟ジビエコース第2回目「解体」。この日ヤマナアカデミーの参加者は5名。講師に地域の獣害対策第一人者で、解体施設も運営する沖浩志さんを迎え、座学と実習が行われました。
まずは午前中30分程度、座学としてイノシシの解体について概要を学びます。解体する際のポイントや、解体した肉の取り扱いについて、スクリーンを見ながら説明を受けました。
その後は屋外で講師の沖さんによる解体を見学。参加者らはこの後解体の実習を行うとあって、熱心に説明に聞き入っていました。意外にも女性の参加者のほうが、冷静に解体を見守り、積極的に質問も行っていました。参加者らにジビエコースに参加した理由を聞くと、全員が「命をいただくことに向き合いたい」と話していました。参加者のうち千葉市在住の女性は「2拠点生活を考えていますが、ブームではなく、きちんとその地域で生活をイメージできる場所を探しています。南房総市は同じ県内なのでアクセスも良く、山も海もあり自然豊かな場所でとても魅力を感じます。今のうちにこの地域で友人も作っておきたいです」と話してくれました。
いったん昼食をはさみ、午後は参加者らによる実践です。初めての体験とあって、最初は緊張している様子でしたが、参加者同士で試行錯誤しながら、そして難しい部分は沖さんの指導を仰ぎながら作業を進めていました。やや緊張気味だった千葉市在住の男性に話を聞くと「以前、外食産業で働いていましたが、ツーリングが趣味で、南房総へはよく来ています。将来南房総を移住先として考えていて、ジビエを活用したツーリングの拠点を作りたいと思っています」と話してくれました。
参加者による作業が終わった頃にはすっかり夕方。夕食は地元産のイノシシ肉を牡丹鍋でいただきます。参加者たちは、地元でも人気の出張料理人でヤマナハウスの「おかみさん」こと木村優美子さんが腕をふるった牡丹鍋コース料理に舌鼓。冷えた身体を温めながら、さらに交流も深めました。
この日講師を務めた沖さんに話を伺うと「ジビエの解体は食育の一環だと思います。ヤマナハウスでジビエについてプログラム化することで、都会ではできない経験を提供できていると思っています。そしてジビエと環境はセットだと思っているので、その個体の食べ物や暮らす環境など、地域の背景も知ってもらいたいです。ジビエの活用だけに終わることなく、地域を伝えていくのが役目だと思っています」と話してくれました。狩猟の師匠から言われた「君は焼き鳥の串になれ」という金言は実行できていると話す沖さん。今後も南房総地域でジビエを通じて多くの人と地域をつないでくれると思います。
コミュニティのゲートウェイ、目指すところは人それぞれ
ヤマナハウスでは毎月2回、月例アクティビティとしてヤマナメンバーが週末集まっています。その日にやることはメンバーたちから自然と意見が出るそう。取材したこの日は、裏山へ行く階段づくり、農機具用の小屋DIY、竹を使ったビニールハウス(バンブーグリーンハウス)づくりが行われました。
この日の月例アクティビテイに参加していたヤマナハウスメンバーの一人、長沼明子さんにヤマナハウスを知ったきっかけなどについて話を伺いました。
「都内で開かれていた『南房総2拠点大学』というイベントへ参加したことがきっかけです。その時、南房総へ日帰りで体験に来て、都内にも通える距離感を実感しました。何度か南房総へ足を運ぶうちに、自然が多く、都心にもアクセスが良い、そして何よりヤマナハウスというコミュニティが楽しいので、ライフスタイルの幅を広げようと2022年に南房総へ拠点を移しました」と話してくれました。
また同じヤマナハウスメンバーで、現役千葉大学生の仲良し3人組にヤマナハウスの魅力について話を伺うと、
「南房総は自然が豊か。山形出身で自然が好きなので、親近感があります。ヤマナハウスのメンバーはいろいろな人がいて、その人たちと一緒に何かを作っていくという達成感があります。今日もバンブーグリーンハウス制作という共通の目標があり、それをみんなで達成していくのがとても楽しいです」(奥山登啓さん)と話してくれました。
将来についてそれぞれ聞いてみると、「南房総は都会からのアクセスが良い場所なので、ビジネスチャンスの場所としても考えています。将来は研究者として働きながら、南房総を拠点に、自然体験学習を取り入れたビジネスモデルを実現したいと思います」(奥山登啓さん)「まずは都内で就職。その後社会人として経験を積んだのち、独立を考えています。研究で培った掘り下げる能力や、ヤマナハウスで学んだことが活かせるようなことを考えていきたいです」(石井和さん)「海と釣りが大好きなので、南房総は2拠点生活の場としてこれからもずっと関わっていたい場所です。今後はヤマナハウスで里海講座を復活させたいです」(安濟崚雅さん)と語ってくれました。
いまではヤマナハウスで階段づくりの名人となった3人組。彼らにとってヤマナハウスはワクワクする場所であり、学びの場でもあります。将来の目標は別々ですが、それぞれヤマナハウスでの活動を通して得たものを糧に、明るい未来を切り開いてほしいですね。
里山リノベーションの担い手、ヤマナハウスの目指す場所
現在ヤマナハウスは次世代の里山リノベーションの担い手として、進化を続けている途中ですが、これからどこへ向かうのでしょうか。ヤマナハウス代表で「村長」の名で親しまれている永森昌志さんに話を伺いました。
「明確なゴールはないですね。目指すところは完成形ではありません。変わり続けるプロセスこそが目的だと思っています。ヤマナハウスはそのプロセスを得るためのプログラムを提供する場所です。参加者同士が学びあう、その拠点を作ることでハード面をサポートするといったイメージですね。世の中にはいろんな人がいて、多様性があるところが面白いです。都市人口、関係人口、職業など、枠を超えて色々なことが混ざりあうことで、新たな発見につながります。その新たな発見を実現できる場として、ヤマナハウスを活用してもらえたら嬉しいです」と話していました。
ヤマナハウスは、今後も地域課題とともに新たな出会いと発想力によって、新しいプログラムが生まれ、アップデートし続けていくでしょう。南房総の里山が「新しい里山」としてどのように進化を遂げていくのか、ますます楽しみです。
【関連リンク】
南房総市ノート
南房総市ならではの暮らしの魅力や自慢の情報をお届けします。