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SEA TO SUMMIT!海が見える南房総の低名山を楽しもう(vol.1:富山編)!

 

「SEA TO SUMMIT」という登山スタイルをご存じでしょうか?

海抜0mから目的の山にアタックしてこそ、その山本来の魅力を味わい尽くせるはず!という骨太な思想に基づいた行動で、世界最高峰は、人類初エベレストをインド・ベンガル湾から約3か月かけ登頂したオーストラリア人登山家ティム・マッカートニー・スネイプによるもの。また国内でも、駿河湾から富士山登山を試みようと思った方は多くいらっしゃるのではないでしょうか?

しかし、常人には上記のタフで長期間に及ぶ冒険のような登山はできません。
可能なら日帰りで、、、
そんなあなたにオススメなのが、南房総の海抜0m登山です。今回は市内でも屈指の人気を誇る富山(とみさん)登山に挑戦してきました♪

今回のルート(富山)

富山(とみさん)という名前は、その昔、阿波の国から黒潮に乗って、南房総エリアを開拓した天富命(あめのとみのみこと)に由来します。この山は、北・南峰と特徴的な双耳峰のフォルムで、北峰には金毘羅宮を有するなど、海とは密接な関係を持っています。
そして、特にこの山の名を世間に知らしめたのは、江戸時代の読本作者・曲亭馬琴。代表作「南総里見八犬伝」において、富山は、伏姫が八房と隠れた洞窟、伏姫を祀った観音堂、八犬士晩年の山居など、物語を象徴するシーンの舞台となっており、歴史とファンタジーが共存する山として有名です。

登山ルートは、「SEA TO SUMMIT」がテーマとなりますので、東京湾側の岩井海岸中央監視所前からスタートし、県道258号を経て福満寺ルート登山口より入山、南峰観音堂、鞍部の里見八犬士終焉の地、北峰富山山頂へアプローチし、下山ルートは伏姫籠穴を経由して昼食、最後に再び岩井海岸に戻るという、やや長大な行程となりました。

今回のルートは、ゆっくり歩いて4時間程度の予定。道中での水分・栄養補給のため、スポーツドリンクと水1.5リットル、そして携行用羊羹・柿ピー・チョコチップスティックを近くのコンビニで用意しました。

季節によって消耗度合いは異なりますが、ゆとりのある装備を心掛けましょう!!

登山開始(岩井海岸中央監視所前)

 

「遠あさの 海きよらかに 子等あまた 群れあそびゐる 岩井よろしも」

午前9時、スタート地点の岩井海岸に到着。
昭和の初期、毎年夏に逗留していた小説家・菊池寛が、上記の歌を残したように、ここは2kmほどなだらかな汀線が続き波も穏やかな海岸、特に夏季はお子様連れに人気の海水浴場スポットになります。

アタックした6月上旬は、ちょうどキス釣りのシーズンで釣り人がチラホラ見受けられました。

 

さあ、海水を触って0m登山開始です♪

 

岩井海岸近辺は、民宿街エリアで、戦前から続く臨海学校の開設地です。
ピーク時の昭和39年には約700校もの学校を受け入れ、東京をはじめ埼玉等関東一円の学校が集まったそうです。

地場の海鮮料理が自慢の特色あるお宿ばかりですので、宿泊先を選択するのも楽しそうですね♪

 

スタートして10分ほどで、目的地の富山が見えてきました。
はるか遠方に見え、まさに0mから登山をしているなという感覚です。

 

県道258号線に合流し、JR内房線の踏切手前近辺で、郷土料理さんが焼で有名な青倉商店「伏姫さんが焼」を通過します。
富山登頂を成功し、無事下山した暁には、是非お昼ご飯で寄りたいところです!

 

南房総市立富山学園前を通過、下山は伏姫籠穴ルートを予定していますので、帰りはここから出てきます。
また写真右手に写っている学園下の観光駐車場は富山登山者用の駐車場として利用できます。

入山(福満寺ルート)

 

登山口の福満寺に到着しました。
観光トイレがありますので、入山前に立ち寄ると安心です。また、必要な方はボランティアの方たちが用意してくださった竹杖をご利用ください。

 

入山早々、いきなりの急登トレイルです。房総半島の山は標高は低くとも傾斜がきつい箇所が多いのが特徴かもしれません。
ここから4合目までは上りが続きます。

 

4合目を過ぎると緩やかな下り道となり一息つけますが、その先は山頂の南峰までは急登の連続です。
自分のペースを守って登りましょう!

 

7合目を過ぎた南側には、房総の山々の中に「THE MAGARIGAWA CLUB」サーキット場が望め、颯爽と走るスーパーカーを眺めることができました。

富山南峰到着(観音堂)

 

南峰に向け石段を登り続けると観音堂に到着。
富山観音堂は、731年行基菩薩が建立したとされ、明治時代まで降雩(ふりう)祭礼という雨ごい祈願が続けられていたそうです。取材の日は雨も降らず、過ごしやすい気候でラッキーでした!

 

また南総里見八犬伝では、観音堂は伏姫の菩提のためとされます。

「山高きが故に貴からず、曲亭翁の霊筆によりて、この山長へに高く尊し 水茎の 香に山も 笑いけり」

お堂の脇には明治・大正期の児童文学者・巌谷小波(いわやさざなみ)の句碑があり、富山に一度も登らずに長編ファンタジーを書き上げた巨匠へ思いを馳せることができます。

 

観音堂から南峰を下り、尾根の鞍部を歩くと見晴らしの良い東屋に到着します。
「里見発見士終焉の地」の木標が建てられており、ここから眺める東京湾と岩井の街並みは絶景です。

富山北峰到着(三角点)

 

鞍部を抜けて北峰へ、富山山頂へ到着しました。
ちょうど山頂にいらっしゃった方へお願いしてパシャリ♪

 

また富山北峰は、かつて江戸湾警護の際に登山した松平容保により、「十一州一覧台」と名付けられるほど優れた眺望が自慢で、この日は三浦半島が綺麗に見えました。

下山(伏姫籠穴ルート)

 

さて、次は下山です。
本日一番の難所ともいえる伏姫籠穴ルートから下っていきます。

見るからに不気味な下山ポイントです。ここは脚だけで登れるハイキングコースと異なり、手を使ってロープを伝い攀じ登る要素があるため、難易度がやや高く、人通りも少なくなります。

体力や技術、装備に自信のない方、コンディションが優れない方、小さなお子様連れの方は往路の福満寺ルートをそのままご利用ください。

 

崩落して大きな段差のあるロープ場や、雑草が茂り見分けづらいステップを注意しながら通行します。

 

無事注意ポイントを抜けて舗装された林道奥澤線へ合流。
私はこれまで富山で、ニホンザル、ニホンリス、イノシシを目撃したことがありましたが、初めてシマヘビと遭遇しました(分かりづらくてすみません)。

写真撮影に熱中していると、後方から登山者の方が。

「こんにちは!どちらのルートから登られたのですか?」

とご挨拶すると、何と房総のマッターホルン伊予ケ岳から縦走してきたという強者でした!!

伏姫籠穴山門

 

「JR岩井駅から市営路線バストミー号を伊予ケ岳登山口・天神郷まで乗車した。」

「富山登山はこれまで3回。」

「房総半島台風の山の被災は本当に酷かった。」

など偶然居合わせた同伴者と南房総の山トークをしていたら、あっという間に伏姫籠穴山門まで到着しました。
写真で山門の右手にある塚は、八房を供養したとされる犬塚です。

 

山門をくぐり抜け、杉林の遊歩道を抜けると伏姫籠穴へ到着。奥には八犬士の霊玉がありました。

仁(犬江 親兵衛)・義(犬川 荘助)・礼(犬村 大角)・智(犬坂 毛野)・忠(犬山 道節)・信(犬飼 現八)・孝(犬塚 信乃)・悌(犬田 小文吾)の八種類。
牡丹の形の痣を有し文字の刻まれた霊玉を所持する8人のキャラクター、玉梓(たまずさ)という圧倒的ヒール(映画や舞台の玉梓は本当に恐ろしい!)、そしてその世界観。江戸時代の作家が生み出したこのファンタジーが、後の日本の作家たちへどれほどの影響を与えたのだろうかと考えると感慨深いものがあります。

昼食(青倉商店「伏姫さんが焼」)

 

滞在時間が長くなりました。
伏姫籠穴ルートから、県道258号線へ合流、ちょうどお昼を少し過ぎた時間帯でしたので、往路で通り過ぎた青倉商店「伏姫さんが焼」で昼食をいただきました。メニューを見るとどれにしようか大変悩みます。

 

下山後のお楽しみは漁師丼に決定。

丼にも、付け合わせにも、さんが、さんがです。さんが焼きとは、山家焼き。多く作りすぎた南房総の郷土料理なめろうを、あわびの殻に詰めて焼き、山作業でのお弁当として持って行ったとされる、いわば房州特産魚介ハンバーグのことです。
登山後にいただく料理としてはぴったりの逸品ですよ!

行動食もそれなりに摂取したのですが、あまりの美味しさにペロリと完食です。

 

丼を平らげている間にもチラホラとお客さんが。中にはお弁当を注文される方もいらっしゃいました。
なるほど、公共交通などの利用で時間に余裕のない方は、あらかじめ電話予約してお弁当を受け取るのも理に適っていますね。青倉商店さんはお惣菜やお弁当も有名ですから、どれも美味しそうです♪

至福の昼食時間を終え、お腹も心も脚も満たされた状態で海へ、無事岩井海岸に到着しました!!

「SEA TO SUMMIT」企画vol.1:富山編、如何でしたでしょうか?
南総里見八犬伝のテーマパークともいえる富山は、この記事ではまだまだご紹介できないほど多くのストーリーがあります。さらに気軽に海から挑戦できる南房総の0m登山は、お昼に新鮮な海産物を召し上がれるのも魅力の一つかもしれません。房総半島ならではの登山スタイル、みなさんもぜひお試しください!!
なお温暖な南房総では夏前でちょうど山納めとなります。また新たな企画でみなさんのお目にかかれれば大変うれしいです。

それでは、またどこかの山でお会いましょう!!