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南房総の有機農業の礎「三芳村生産グループ」~安心・安全な食べ物を届けたい~
南房総市三芳地区に50年以上にわたり、有機栽培で野菜を作り続けている生産者がいます。今回は南房総の有機農業の歴史を刻みながら消費者との信頼の上に未来を切り開いていく三芳村生産グループについてお届けします。
三芳村生産グループとは
三芳村生産グループは、1970年代に様々な公害が問題となる中、首都圏の消費者が食べ物に不安を感じ、旧安房郡三芳村(現南房総市三芳地区)の農家の方々に安心・安全な野菜作りを懇願したことから始まりました。
当時、農家側からは有機栽培について批判的な声もあったそうですが、「作られた農産物を消費者が全量引き取る」という条件のもと、三芳村の農家18戸によって「三芳村生産グループ」が発足しました。
以来50年以上、三芳村生産グループは、農薬・化学肥料を使用しない野菜作りを続けています。
現在は、17軒の農家グループと購入者を会員とする「三芳野菜の会」を構成し、毎週火・木・土に会員向けに野菜BOXを、また南房総市のふるさと納税の返礼品として米や卵、野菜BOXを出荷しています。
そして月に一度は都内の会員のところへ直接野菜BOXを配達にいくほか、会員向けのLINEで生産者の日常を配信したり、縁農※の受け入れや会員やゲストを招いた感謝祭などのイベントを企画して、現在でも会員と顔の見える関係を大事にしています。
最近では、県内外の7つの保育園とも連携し、野菜の配達や田植え・稲刈りなどの体験を通して交流を深めています。
※縁農(えんのう)とは、農家でない人が農業の手伝いをすることです。本来は「援農」と書きますが、「ご縁」を大切にする三芳村生産グループでは「縁農」と表現しています。

30代~80代の17軒の農家の方々が毎週火・木・土の週3回、共同で出荷作業を行っている(南房総市三芳地区)

南房総市のふるさと納税の返礼品として登録している「野菜BOX」。※中身は季節により異なります

月に1度、都内の消費者に野菜BOXを届けに行き、直接交流

今では珍しい「はざかけ」(刈り取った稲をはざ木にかけ天日で自然乾燥させる)の縁農の様子

東京都新宿区の「エイビイシー保育園」ほか、計7つの保育園と連携
三芳村生産グループのこだわりと循環型農業
三芳村生産グループでは、「生産者の約束事」として有機JAS規格より厳しいルールで農薬や化学肥料を使わない米や野菜作りを行っています。
1.農薬・化学肥料・遺伝子組換え品(菜種油粕など)は、使用しない
2.すべての野菜は露地栽培
3.平飼いで養鶏(エサは自家製野菜のクズ・米ぬか・遺伝子組換え品でない国産穀物)
4.肥料は自家製の鶏糞のみ
5.硝酸塩窒素の検査の義務
6.出荷する野菜と家で食べる野菜を区別しない
7.野菜の単価は固定、会員に公表(お約束)
8.畑はオープン。常時、会員の視察・縁農の受け入れ
9.自給農家を理想とし、分業・外注・生産性主義に走らない
特に養鶏については、鶏が自由に動き回ることができる平飼いにこだわり、エサも自家製の野菜のクズ・米ぬか・国産雑穀を使用しています。配合飼料や輸入飼料は一切使用しません。その鶏が産む卵の黄身は美しい「レモンイエロー」をしており、抗生物質や薬剤を与えていない安心卵の証です。
さらに鶏は、三芳村生産グループにとって循環型農業を実現する上で、中心的な役割を果たしています。まだ有機農業という言葉がない時代から、鶏を平飼いし、その鶏糞を肥料として活用してきました。鶏の存在があるからこそ、おいしい米や野菜が作れるとともに、環境負荷の軽減を実現しています。
昨今SDGsが叫ばれていますが、三芳村生産グループでは50年以上も前から持続可能な循環型農業が行われています。

ストレスの少ない平飼いで鶏ものびのび

卵の黄身は美しい「レモンイエロー」。「ESSEふるさとグランプリ2023」では三芳村生産グループが提供する南房総市ふるさと納税の返礼品「究極卵かけご飯セット」が金賞を受賞!
三芳村生産グループ副代表の古宮さんにお話を伺いました。
「現在は米や野菜・卵・加工品など年間80品目以上を消費者に届けています。猛暑や干ばつ、獣害などの影響により、年々野菜作りが難しくなっていると感じていますが、今後も安心・安全な食べ物を届けていきたいと思います。そして多くの人に三芳村生産グループの取り組みを知ってほしいです」
ご縁とともに踏み出した新たな一歩
三芳村生産グループのメンバーに、南房総市に移住して4年目を迎えた奥野さん夫妻がいます。
夫の健さんは大手IT企業を55歳で早期退職し、2021年に浦安市から南房総市に移住。それと同時に新規就農を果たしました。
健さんに就農先として三芳村生産グループを選んだ理由について伺いました。
「県内のいろいろな農家を10軒くらいまわって話を聞きましたが、想いが一致する場所はなかなか見つかりませんでした。そんな中、ご縁でつながったのが三芳村生産グループです。本来就農というと、自分で販路を開拓しなければなりませんが、三芳村生産グループにはすでに販路があります。自分は野菜作りに集中したいという思いが強かったので、それが実現できるのはここだと思いました」
「最初は少ない面積を作付けするのも大変でした」と話す健さんですが、今では約5反(5,000㎡)の畑と原木シイタケの栽培、鶏の飼育までこなし、今後もさらに畑を拡大する予定です。
「さすがに鶏を飼育することになった時には、自分でも驚きました。何から始めたらよいか分かりませんでしたが、そんな時にも頼りになったのは同じグループの先輩方です。三芳村生産グループにはたくさんの先生がいます。いろいろな方から教えてもらったり、困ったときに助けてもらえることは本当にありがたいことです」

写真は健さんが最初に借りた畑。現在はこの場所を含めた約5反(5,000㎡)の畑で時期をずらしながらキャベツ・ネギ・ブロッコリー・青梗菜・ターサイ・ズッキーニなど20品目以上を栽培

健さんは先輩農家の方と山へ一緒に木材を切り出しに行き、原木シイタケの栽培も手掛けている
また、妻の薫さんにもお話を伺うと、当初、夫が職業として就農することに反対していたそうですが、夫の覚悟を隣で聞いているうちに、いつしか応援したい気持ちに変わっていったといいます。
そして今ではフェンネルやビーツ、コーラルビといったこれまで三芳村生産グループでは取り扱ってこなかった野菜の生産に積極的にチャレンジし、健さんと二人三脚で農業を営んでいます。
最近では外食をしても「どんな野菜がレストランで需要があるのか」を考えてしまうほど、野菜が生活の一部になってきているそうです。
「三芳野菜の会の消費者の皆さんはお料理好きな方が多いです。新しい野菜を試食してもらったり、縁農に来た方から調理方法を教わったり、消費者との距離がとても近く、農業の楽しさを肌で感じています。また、三芳村生産グループの方たちはとても面倒見がよく、同じ目線になって教えてくれます。最近ではみそ作りも教わったりして、本当に信頼できる先輩方です」
さらに薫さんは「狩猟免許を持っていたらカッコいいな」という憧れと、鶏小屋周辺に出没するイノシシを「どうにかしたい」と思いが強まったタイミングで、偶然にも南房総市役所で狩猟免許試験が行われることを知り、受験に挑戦。見事合格しました。以来、イノシシを箱罠で捕獲し、これまでに17頭以上駆除を行っています。
地元の方からも「すごい女性が移住してきた」と話題に上がるほどです。
忙しいけれど充実した日々を過ごしている奥野さん夫妻。移住当初、家探しに苦労したエピソードも語ってくれましたが、ほどなくして南房総市の空き家バンクを通じ、約850坪の農地とパイプハウスがついた理想の物件に出会うことができました。
そして三芳村生産グループの担い手の一員として歴史を受け継ぎながら、これからも新しいことにチャレンジしていきたいと話していました。

南房総市の空き家バンクを通じて購入した農地付きの物件。ご夫婦とも天井の高い広々とした空間がお気に入り。前のオーナーとは「猫好き」という共通点も
50年以上の歴史を誇る南房総の有機農業の礎「三芳村生産グループ」。今後も消費者との信頼関係を大事にしながら、自然に即した安心・安全な食べ物を作り続け、新しい仲間とともに未来を切り開いてほしいと思います。
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